Simulfocus Imaging: 複数焦点距離画像の準同時計測
通常のカメラは一度に特定の焦点距離での画像しか撮影できない.もし複数の異なる焦点距離の画像を撮影したければ,撮影ごとに焦点距離をかえて複数の画像を撮影する必要がある.これを解決する手段として従来ホログラフィやライトフィールドによる画像合成手法があるが,これらの手法では計測した情報から画像再構成演算が必要となる.
これに対し,当研究室は静岡大学の川人祥二教授らのグループと共同で,複数の焦点の画像を光学的に同時に撮影する技術である,Simulfocus Imagingを開発した.この技術では光学的に複数の焦点距離の画像を撮影でき,画像の再構成演算が不要であるという利点がある.なお,Simulfocusはsimultaneous(同時に起こる)とfocus(焦点)を組み合わせた造語である.
当該技術は,
1. 約70kHzで焦点距離が高速に振動する共振型の液体レンズであるTAGレンズ,と
2. Tapと呼ばれる複数の画像格納領域をもち,それぞれについてナノ秒精度で独立して多重露光ができる撮像素子であるMulti-Tap Lock-in Pixel Image Sensor
を組み合わせることで,1台のカメラで実質的に同時に複数箇所の異なる場所にピントが合っている画像を撮影することができる.顕微鏡系と望遠系とで実際に撮影した結果の動画を以下に示す.
TAGレンズの振動は非常に高速で,その一周期は14.5us程度とごく短い.このため,特定の焦点距離の画像のみを撮影するためには100ns程度の短い露光時間が要求される.しかし,この短時間の露光では非常に暗い画像しか計測できない.一方,TAGレンズは同じ振動を繰り返すため,合焦位置は同じ場所を何回も通過する.そこで,特定の位置を通過する都度露光を行い,そこで得られた情報を積算することで実用的な明るさを得ることに成功した.この動作の概要を図1に示す.
動画 Simulfocus Imagingで細胞・人・車を撮影した結果
図1 Simulfocus Imagingの撮像原理の概要図
参考文献
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Kazuki Yamato, Yusuke Tanaka, Hiromasa Oku, Keita Yasutomi, and Shoji Kawahito : Quasi-simultaneous Multi-focus Imaging Using Lock-in Pixel Image Sensor and TAG Lens, Optics Express, Vol. 28, Issue 13, pp. 19152-19162 (2020) [doi:10.1364/OE.394760]