1000-volume/s高速体積型ディスプレイ
近年、VRやAR技術への関心が高まるとともに、様々なヘッドマウントディスプレイ(HMD)の開発が盛んにおこなわれている。しかし、現在普及しているHMDは、(1)輻輳と調節の矛盾(VAC)が存在する、(2)ディスプレイ更新速度が十分ではない、という問題がある。前者のVACは目の注視する奥行に対して、眼球の回転による輻輳と水晶体による目のピント調節に矛盾が発生するという問題で、VR酔いや眼精疲労を引き起こす。また、現実世界の動的物体へシースルー型HMDを通してアノテーションの提示を行うという場面を想定した際、現在のHMDでは、ディスプレイの更新速度の遅さから物体とアノテーションにズレが生じ、体験者に対し不快感を与える。そこでVACがなく、かつ必要十分な更新速度1000Hzを実現するディスプレイ原理を提案し、研究・開発している。
提案するディスプレイは、表示面の奥行位置を高速に変更しながら、奥行毎に異なる映像を表示することで三次元情報を提示する体積型ディスプレイに基づくものであり、これを高速化できれば目的を達成することができる。高速な体積型ディスプレイを実現するためには、表示面奥行位置を高速に変更する必要があり、これを約70kHzで焦点距離が高速に振動する共振型の液体レンズであるTunable Acoustic Gradient index(TAG)レンズにより実現している。また、奥行毎に表示する画像も同様に高速に変更する必要があり、これをミラーの角度を変えることで光の反射を制御し、高速な画像表示を可能とするDigital Micromirror Device(DMD)を利用することで実現している。これらを組み合わせることで、上記の問題を同時に解決するものである。
このディスプレイでは、1周期14.5usで振動し続けるTAGレンズにLEDを同期させ、1周期中の特定のタイミングで500nsの発光を行うことで焦点距離を選択する手法を取り入れている。LEDの発光タイミングは電気的にほぼ瞬時に制御できるため、TAGレンズの焦点距離は振動周期である14.5us以内に選択できる。さらに、最大6900fpsで画像更新が可能なDMDを組み込み同期させることで、159.5usごとに1枚のモノクロ画像を特定の奥行に提示することを可能とした試作システムを構築した。このシステムを使用し、それぞれ奥行の異なる位置に提示した6枚のモノクロ画像を1セットとする体積を1ms(≒159.5×6)という更新速度で提示することに成功した。
図1 試作したディスプレイ
図2 6ヶ所の異なる奥行にAからFのアルファベットを提示し、実世界に比較対象物を配置した概略図(下図)。最も手前に提示したAと最も奥に提示したFにそれぞれピントを合わせて、撮影を行った結果(上画像)。
参考文献
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Kohei Suzuki, Yugo Fukano, and Hiromasa Oku, "1000-volume/s high-speed volumetric display for high-speed HMD," Opt. Express 28, 29455-29468 (2020)
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K. Suzuki, Y. Fukano, and H. Oku, "Vergence-accommodation conflict free near eye volumetric display principle with high-speed display rate of 1000 volumes/s," in Imaging and Applied Optics Congress, OSA Technical Digest (Optical Society of America, 2020), paper DF2A.2.
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奥寛雅,鈴木康平,春原岳,「高速HMDのための1000volume/s高速体積型ディスプレイ原理の提案」,第24回日本バーチャルリアリティ学会大会 (VRSJ2019) (東京大学本郷キャンパス, 2019.9.11)/ 予稿集 1C-06